NHKの日米トップに対する報道の違い(ミサイル発射とハリケーン被害に関して)
このブログでは過去に何回か、(政治に関する)報道における「アクター中心主義」の問題について論じてきました。
報道における「アクター中心主義」とは、僕が勝手に作った造語で、簡潔に言えば、
1 人物の言動を中心にニュースを構成すること
2 ニュースの焦点が人物から離れないこと
3 報道内容が「誰が何をした、言った」から先へ進まず、人物から離れた言動それ自体の検証(例えば発言の真偽性や過去のそれとの整合性の検証)をしないこと
これらの特徴を持ったニュース報道を指しています。
さて、僕は現在、日常的にテレビのストレートニュースを見ることのできる環境にあるわけですが、このアクター中心主義に関して、ある感覚を少し前から抱いていました。
それは、この「アクター中心主義」的な傾向が、外国の政治アクターに対してよりも、日本国内のアクターに対しての方がより強く出るのではないか、というものです。
さて、今回たまたまこの日米両国の政治のトップが、似たような困難な状況を前にして、似たような発言をしたので、比較を試みたいと思います(出典はすべてNHKです)。
まず、アメリカのトランプ大統領からです。
テキサス州に上陸したハリケーンの大きな被害に対してのトランプ大統領の対応を伝えるストレートニュースです。
まず、タイトルは「米大統領 米南部の大雨災害で万全対応を強調 」です。また、実際にテレビに流れた動画を見ると(リンク先ページにもあります)、右上のテロップにも、「米 大規模洪水で大統領 万全の対応 強調」とあります。
そして中身を見ると、
アメリカ南部に上陸したハリケーンに伴う大雨で、テキサス州ヒューストンなどでは大規模な洪水が起きていて、地元の警察が、水がつかった地域に取り残された人たちおよそ3000人を救出し、トランプ大統領は、「人命を最優先に地元の州などと緊密に連携している」と述べ、万全の対応をとっていると強調しています。
「復興は、長く、困難な道のりになるが、政府にはその準備ができている」と述べ、万全の対応をとっていると強調しています。
と、このような感じになっています。
注目するべきは、大統領の発言の紹介を「述べました」で終わらせずに、(発言によって)「万全の対応を取っている」という姿勢を「強調している」と言うことで、トランプ大統領自身や彼の発言から一歩引き、それにたいしてNHK独自の評価を加えている点です。
また、次のようなニュースもあります。
同じくテキサス州でのハリケーン被害に、トランプ大統領が現地入りの意向を示したことを伝えるストレートニュースですが、トランプ大統領がツイッターで政府各機関の連携とその対応を評価する旨のツイートをしたことに対しては、
トランプ大統領はツイッターに「政府機関の間ですばらしい調整がなされ、数千人が救助された」と投稿して順調な救助活動が行われていると自賛したうえで、「問題がなければすぐにテキサスに行きたい」とみずから現地入りする意向を明らかにし、そのあと、29日の訪問が決まりました。
と、このように書かれており、 ニュースの最後はこのような形で締めくくられています。
ハリケーンへの対応をめぐっては、2005年の「カトリーナ」の際に当時のブッシュ大統領が遅れを批判されて支持率が急落したこともあり、トランプ大統領は機敏に対応しているとアピールしたい考えと見られます。
一貫して言えるのは、どちらにもNHK独自の視点が入り込んでいるということです。
前者についていえば、ツイートの紹介を「指摘しました」のような形で締めくくってもよさそうなものですが、「自賛」という言葉を使い、(おそらく)批判的な意味を込めた紹介になっていますし、後者では、現地の訪問を「アピール」だと言っているわけです。
さて、次に日本の安倍首相に対してのそれを見てみます。
まず、このニュースからです。
まずタイトルは、「北朝鮮ミサイル 首相『断固たる抗議』」です。リンク先には動画はないですが、このニュース内容を伝えていた当時のテレビ映像では、右上のテロップには、「『国民の生命守るため 万全の態勢』安倍首相」とありました。
そして中身は、このような感じになっています。
安倍総理大臣は「北朝鮮が発射した弾道ミサイルがわが国上空を通過し、太平洋に落下した。政府はミサイル発射直後からミサイルの動きを完全に把握しており、国民の生命を守るために安全に万全の態勢をとってきた」と述べました。
安倍総理大臣は「国連安保理に対して、緊急会合の開催を要請する。国際社会と連携し、北朝鮮に対するさらなる圧力の強化を、日本は強く国連の場において求めていく。強固な日米同盟のもと、いかなる状況にも対応できるよう、緊張感を持って、国民の安全そして安心の確保に万全を期していく」と述べました。
前述のトランプ大統領に対しての報道との大きな違いは、発言の紹介を「述べました」で簡潔に終えている点です。つまりニュースを発言の紹介にとどめて、発言に対する評価は一切入っていないのです。特に前者は、トランプ大統領の例でいえば「自賛」と紹介されても不思議ではないような発言です。が、そのようにはなっていません。
もちろん、このようにすべてが発言そのまま紹介されるだけで終わるわけではありません。ミサイル発射には関係ないですが、今朝、このようなニュースもありました。
安倍首相が党役員と夕食をとった際に会談した内容を伝えるニュースですが、首相の発言はこのように紹介されています。
安倍総理大臣は交代した役員らをねぎらったうえで、先月の東京都議会議員選挙で自民党が大敗したことに触れ「私を含めて反省すべきは反省していきたい」などと述べ、謙虚に政権運営を行っていきたいという考えを示しました。
ここでは確かに、発言の紹介が「述べました」で終えられてはいません。しかしトランプ大統領の例のように、「強調しています」などと発言から距離を保った評価が行われているわけではなく、「考えを示した」と締めることで、鍵カッコ以降は、結局発言の大意を紹介しているにとどまっています。
これまで紹介してきた事例は確かに些細ですが、実際映像を見たり、あるいは文章で読んだりしてみると、非常に印象が違います。
同じ政治的アクターに対して、なぜこのような報道の差が生じるのでしょうか?その理由は僕にはわかりませんが、同日に同じような状況で日米の首脳が同じような発言をしたのにも関わらず、報じ方が異なるので、とても興味深く思い、この記事を書いてみました。
追記(8月31日)
ハリケーン被害で、トランプ大統領が被災地に訪れたというニュースが、NHKでも取り上げられました。
その内容が上記で引用したもの以上に、例として「典型的」だったのでここで紹介しておきます。
以下引用です。
アメリカのトランプ大統領はハリケーンが上陸し、大規模な被害に見舞われている南部テキサス州の被災地を訪れ、政権の対応は万全だと主張し、みずからの発言への風当たりが強まる中、野党やメディアに批判のきっかけを与えないよう、被災者支援を最優先にする姿勢を強調しています。…
トランプ大統領は、今回のハリケーンについて、連日ツイッターに投稿し、政権の対応は万全だと強調しており、白人至上主義などをめぐるみずからの発言への風当たりが強まる中、野党やメディアに批判のきっかけを与えないよう、被災者支援を最優先にする姿勢を強調しています。