ペンギンの飛び方

本を読んだりニュースを見たりして考えたことを、自由に書いていきたいと思います。

イニエスタのようにボールを扱うにはどうすればよいか 

 

少し煽ったようなタイトルになってしまいましたが、今回の記事では僕の5年間ほどの彼のプレーの観察と、実践(草サッカーではありますが…)によって到達した、一定の結論を述べてみたいと思います。

 

スペイン代表でFCバルセロナ所属のMFアンドレス・イニエスタのボールの持ち方には1つの大きな特徴があります。

この特徴がイニエスタのほぼ全てのプレーの土台となっていて、あの唯一無二で華麗な動きを可能にしています。

この特徴は、私たちがサッカーについていわゆる「テクニック(技術)」と言うときの、ボールコントロールの正確さに関連したものではありません。

よって彼のボールの持ち方は、それを意識して正確に実践すれば、誰にでも身につけることができますし、そうすればすぐに、イニエスタ程とまでは言えないまでも、飛躍的なプレーの質の向上が見込まれます(ただ、後に述べますが、この持ち方にはいくつかの欠点も存在しています)。

これから論じていくことを先取りし簡潔に述べれば、彼のボールの持ち方は、サッカーという競技の性質上、「原理的に上手い」と言うことができるでしょう。

イニエスタがあのような優雅なプレーが出来るのは、ボールコントロールが異常に正確だからでも、類まれなひらめきがあるからでも、あるいは、足が速いからなのでもありません。(最後の一つは措くとして、前の二つは確かにイニエスタイニエスタたらしめる要素の一つではあります。が、決定的なものではありません)

秘密は彼のボールの持ち方にあるのです。

(これから述べていくことはイニエスタのプレーの観察から得られた仮説と、僕自身の実践のフィードバック・ループの繰り返しで得られた僕なりの結論です。よって議論の中には、僕の主観的な経験や身体感覚から得られた知見も含まれています。僕自身は残念ながら人体の専門家ではありませんので、純粋に客観的で科学的な議論ではないことをご了承ください。)

 
ボールに対して体を斜めに45度開く

最初に、イニエスタ以外の大多数のサッカー選手のボールの持ち方を見てみます。

まず両足を肩幅ほどに開きます。(この幅については状況や選手に応じて変動します)

そしてボールを両足の間の15~30cm前方(この長さも状況や選手によって多少変動します)、それも右足寄りに置きます。(これ以降、特に断りが無い場合利き足は右足を想定しています)

これが普通の一般的なサッカー選手のボールも持ち方、あるいはボールの置き所です。

では次にイニエスタについて見てみます。

足を肩幅程度に開き、ボールを両足の間の約15cm前方の右足寄りに置くまでは、他の選手と変わりありません。しかしこの後が大きく違います。

イニエスタはこの後、体を右に45度開きます。すると足はそれにつられて、左足はボールの横15~20cm、前方5~10cmに位置することになります。

右足に関しては位置だけでなく足(つま先)の向きすらも変わっています。右足は、ボールの10~35cm後方(この距離は状況によって様々です)にあります。そして今にもインサイドキックかインフロントキックをしそうな状態です。つまり、足は75度~85度ほど右へ向きを変えているのです。

この一連の変化はいったい何を意味しているのでしょうか。この謎を解くには、サッカーにおいて、効率的で隙の無いボールの動かし方とはどういうものなのかについて考える必要があります。

 

「横移動」の合理性

100mや50m、いや10mでもいいですが、これらの距離を最も早いタイムで移動するにはどのような体の動かし方が適切でしょうか?

言うまでも無くそれは、足を前方に交互に動かし体の面に対し垂直に、要するに、「縦方向」に体を運ぶことです。

つまり、私たちがオリンピックの100m走で見るような、あの走り方ーそれはウサイン・ボルトでも運動会の徒競走でも変わりなくーが人体の移動におけるトップスピードを実現するには適した方法なのです。

しかし、この体の動かし方は、自分の足元にあるボールを猛然と奪おうとする人間が11人もいる、縦105m横68mの白線の中を、それを保持したまま移動するための手段としては決して適切なものとはいえません。

このような状況では、100mの距離を移動する早さではなく、せいぜい4,5m程の、それも多くの場合は数十センチほどの移動を繰り返したり、進行方向を変えたりする際の素早さや、体重移動のスムーズさが重要になります。もちろんこの際、足元のボールの存在を忘れてはいけません。

ここで登場するのが「横移動」です。僕はここからサッカーにおける横移動の合理性を検討するつもりですが、その前に上述でも触れたサッカー選手の一般的なボールの持ち方において、「縦方向」に移動するときの欠点を見てみたいと思います。

 まず、上述の持ち方では、ボールを体の面に対して垂直に、つまり縦に運ぶことは自然な成り行きです。なぜなら、足の前方にボールがあり、また、足はボールの方向を向いているので、体を前に進ませようと思えば自然にボールが足のつま先(や、甲の近辺)に当たるからです。

(サッカーにおいてはボールと体は前に運ばなければならないことを忘れてはいけません。ボールを取られないことは確かに重要ですが、この競技ではボールを相手ゴールのネットに入れるのが最終的な目的です)

さらにこれは前述の人体を最も早く移動させる方法とも一緒です。ですからこの動きは、一見非常に自然で魅力的なものに見えます。ところが実際にはこの方法は、多くの欠点を抱えています。

まず第一に、このやり方ではボールをタッチした後、ボールが体から大きく離れてしまいます。というのもこの移動方法は、右足でボールを前方に「蹴った」後、それを追いかけるという手順を基本にしているからです。

第二に、タッチ後のボールの動きと、その後の体の移動に連動性がありません。ボールの進む方向に体も移動させるには、ボールを蹴った右足の後ろに残った左足で強く踏ん張り地面を蹴る必要があります。タッチした右足にそのまま重心を移動させることはできないのです。

サッカーにおいては単純なミスを除けば、ボールを取られるときは基本的に2つの隙間を相手に突かれています。

1つは空間的な隙間。これはボールと体の距離です。

2つ目は時間的な隙間。ようするにラグです。これの例としては、ボールタッチを決断して体を動かし実際にボールを触るまでのラグや、タッチしてからの体の移動までのラグがあります。

体の前方に置いたボールをそのまま縦に蹴って運ぶ、というより追いかけるという方法は、このような隙間をいたるところに生み出すのです。

もちろん、それでもこれが、一定以上の距離を最も速いタイムでボールと体を一緒に移動させる方法であることには変わりありません。したがって、誰もいないピッチを端から端までドリブルするタイムを競うならこのやり方が理にかなっています。しかし、それはサッカーではありませんし、単にスピードを競えばいいのなら、ドリブルよりパスの方がボールの移動はよっぽど速いのです。

次に、横移動の利点の検討に移ります。

両足を肩幅に開いた後、右足の左真横にボールを置き、そのままインサイドでボールタッチし、左方向に体を移動(スライド)させてみましょう。そしてこれを数回繰り返してみてください。

横移動、つまり体の面に対して平行の移動においては、まずボールとタッチした足が離れることがありません。そして、タッチ後のボールの移動とそれを追いかけるための体重移動がほとんどラグなく行われていることに気づくはずです。つまり、ボールタッチとボールの転がり、体の移動が総てスムーズに連動しているのです。極端に言えば、体がボールを追いかけるのではなく、体の動きにボールが付いていく感じです。

これは、前述のボールを取られる際の2つの隙間が存在していないことを示しています。そしてもちろん、右方向への移動、つまりアウトサイドでのボールタッチにおいてもこの点は変わりありません。

僕は横移動がなぜこのようにスムーズなボール運びと体重移動を可能にしているのは説明できません。ただ、反復「縦」跳びと、反復「横」跳びでは、後者の方が速く出来ることが関係しているのではないかと感じています。

トップスピードに乗るには縦移動ですが、短い間隔を進行方向を変えながら反復するような動きは横移動の方が断然速い。サッカーで重要なのは後者のような動きの素早さやスムーズさであるとは、これまでに述べてきた通りです。

 

ここまで、(体の面に対して垂直という意味で)縦移動の欠点と、(体の面に対して平行という意味で)横移動の利点を説明してきました。

ですが、どこからともなく次のような声が聞こえてきそうです。

 

「縦に移動することの欠点は分かった。確かにボールを取られない為には横移動の方が合理的なのだろう。しかし、いつどんなときでも横移動するのか?サッカーは最終的には相手のゴールネットにボールを入れるのが目的だ。そのためにはボールを前に運ばなければならない。君は選手に、ベンチに体を向けながら、ゴールめがけてカニ歩きをしろというのか?」

 

この批判はある種の本質を突いています。

サッカーはボールを前に運ばなければならないスポーツです。ボールを保持する時間が長いチームが勝利というルールはなく、あくまで相手ゴールネットにボールを入れた回数で勝敗が決まります。

したがっていつかは危険を冒しても縦移動をしなくてはいけないのではないか。なぜなら、相手の守備網をかいくぐり、素早くボールを前に運び、シュートを打つ必要があるからです。その際には、横移動はひどく適さないように見えます。

イニエスタは、この横移動が本来的に持つ致命的な欠陥を、体を右に45度開くことで解決しました。

つまり、カニ歩きをすることなく、それなりの速度を保ったまま、横移動のときと同じか、それに近い体重移動の仕方で、ボールを前に運ぶことを可能にしたのです。

詳しく見ていきます。

体を右に45度開いた状態で、ボールを前に運ぼうとするとどうなるでしょうか?

実際にやってみると分かりますが、右足によるボールタッチの前に、左足がさらに一歩前に踏み込んでしまうことが分かると思います。

すると、左足は先ほどまであった場所ではなく、ボールの左前方(左斜め前)30cmほどの場所に移動します。当然この動きによって体の「開き」はより大きいものになります。つまり、45度から60~80度ほど、さらに右に開くのです。

踏み込んだ左足につられるように、次に右足でボールを前に運びます。右足は最初から右に大きく開いていますから、このタッチはインサイドで行われることになります。

するとどうでしょうか。結局このボールタッチとそれに続く体の動きは、体の開きと両足の位置関係や向きからして、インサイドによる左方向への横移動と、ほとんど変わらないものとなるのです。

そして、前段階の左足の踏み込みのあとは、実はアウトサイドでの後ろ方向(体との関係では右方向)への横移動も可能になります。つまり、体を45度開いた姿勢からの一連の動きによって、単純な横移動だけでなく、前後への移動の際にも、横移動に近いスムーズなボール運びが可能になるのです。

さらに、左足を踏み込む距離や、体を45度開く際の両足の微妙な位置の変化によって、あるいは、そもそも最初にどこを「0度」にするかによって、実際には全ての方向への移動を横移動か、それに近い体重移動の仕方で行うことが出来ます。

つまり、イニエスタのボールの持ち方は、横移動の利点を常に、最大限活用する為に、前後の移動に弱いという横移動の欠点を克服し、擬似的な横移動に瞬時に移ることを可能にするためのものだったのです。

 

「45度」の欠点

もちろん、イニエスタの持ち方も、万能ではありません。いくつかの欠点があります。主なものを、以下に示します。

①ドリブル時のトップスピードが遅くなる

②左足をあまり使えなくなる

②強いシュートが打ちづらくなる

 

1つ目は、基本的に無視できるものです。サッカーにおいてボールを保持した状態では、単純なトップスピードよりも、狭い範囲内での動きのスムーズさの方が、ほとんどの場面において重要だからです。

2つ目は、欠点として挙げましたが、特徴といっても差し支えないものです。この持ち方においては、左足はあまりボールを触る役割を持つことはありません。体重移動の先鞭をつけたり、ボールキープ時のブロック役として活躍することになります。つまり、左右の足で分業体制になるわけです。(完全な両利きの場合はともかく、ボールコントロールの正確さの観点で見れば、ボールを触るのはできるだけ利き足で行うことが望ましいと僕は思います)

最後に3つ目は、ある程度重大なものです。というのも、軸足である左足がボールより前にある状態では、ボールが体の懐に入りすぎてしまい(そもそもこれがこの持ち方の特徴です)、強いインパクトでボールをミートすることができません。というより、そもそもインステップでボールを蹴ること自体がいくらか難しくなります。

もちろん、だからといってこの持ち方がFWには適さないというわけではありません。シュートでボールにミートするその瞬間まで、45度体を開くことの利点を活用することが出来るからです。(とはいえ、例えば多少の「使い分け」は必要になるかもしれません)

 

最後に、イニエスタ以外でこのような持ち方をすることがある、あるいは近い持ち方をする選手を以下にあげておきます。

シャビ、ブスケッツ、イスコ、アザールモドリッチ、アルトゥール(グレミオ

なお日本では、フロンターレ大島僚太選手です。